がれきが積み重なった火災現場。住民が温泉で世間話を楽しんだかつての町は、もう戻ってこない=16日、別府市光町
別府市光町で深夜に発生し、住宅やアパート計27棟を全焼した火災から5日目の17日。「ベッドで横になれるのはありがたい」。近くのホテルで過ごす16世帯30人は部屋や食事の無償提供を受け、疲れは幾分、取れてきたように見える。だが、心の中に空いた大きな穴は埋まらない。
「公民館に集まった地域の人たちを見てほっとしました」。自宅を失い、両親と共に一家4人で避難した女性(27)は話す。
焼失した一画は、古い木造住宅が多い昔ながらの町。地区内の此花(このはな)温泉を核に、近所付き合いが盛んな地域だった。月千円で入り放題の温泉で、文字通り“裸の付き合い”。「ばあちゃん、どうしよんかえ。足の具合はどうかえ」「ごみの日はちゃんと守らんといけんで」。温泉では毎日、井戸端会議が繰り広げられ、みんなのことが分かっていたという。
一人暮らしの女性(86)は出火当時、アパートの自分の部屋にいた。電話が鳴り、誰からか分からないが一言「火事だ」。何とか外に出ると裏のアパートは火の海。不自由な足が震えて動けなかった。
すぐに近くのマンションに住む知り合いが駆け付けてきた。「大丈夫か」。背負って知り合いの自宅まで運んでくれた。「あの電話がなかったら焼け死んじょるわ」。家々のドアをたたいて回る人や避難を誘導する人もいたという。
温泉でつながった“家族”は今後、各地の市営住宅などに転居。離れ離れになる。行ったこともない、知人も友人もいない地。長年通った医院も遠くなってしまう。「もう年やろ。これからどうなるんじゃろうか。新しい生活になじめるんかなあ」と女性。
息子と2人で暮らしていた女性(78)は「普段の、当たり前のあの日に戻れたらなあ」とつぶやいた。
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